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東京地方裁判所 平成7年(ワ)18868号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

一  本件の争点は、原告が被告の退職金規定の適用のある従業員であるか否かである。

二  そこで判断するに、まず、原告が被告の監査役として就任したものであることは当事者間に争いがなく、定時株主総会記録及び弁論の全趣旨によれば、原告が三期にわたり監査役として職務に就いた後、平成五年二月二四日ころ、原告が任期満了により退任したことが認められるところ、そもそも、監査役は、従業員と兼務することができないことが商法上の原則であるから、当該監査役とされている者の他に監査役が就任して実際にはその者が監査役業務の全部を担当しており、かつ、監査役報酬として支給されている金員が監査役の報酬としては著しく低額であり、かつ、その者が監査役としての独立した職務とはかけ離れた従属的・機械的労務に服しているなどの特段の事情のない限り、当該監査役とされている者が監査役たる地位と従業員たる地位とを兼有していると認めることはできない。

三  右の観点から本件について見ると、昭和六二年当時の被告の商業登記簿によれば、原告以外に被告の監査役に就任している者がなく、原告が唯一の監査役であったことが認められ、また、原告が監査役報酬として支給されていた月額五四万円(平成五年当時)が監査役報酬として著しく低額であるとは到底言えず、しかも、弁論の全趣旨によれば、原告が定年退職して退職金の支給を受けた後に被告の監査役に就任したことが認められるから、結局、本件原告については、前記の監査役が従業員たる地位を兼有していると認めるに足りる特段の事情があるということはできない。

四  他方、被告の従業員以外の者で被告のために職務を行う者に対して退職金を支払う旨を定めた退職金規定が存在することの主張・立証はなく、また、被告と原告との間で退職金支給の合意がなされたことの立証はない。

五  以上によれば、原告の本件請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおりに判決する。

(口頭弁論終結の日・平成八年六月二四日)

(裁判官 夏井高人)

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